優しい世界
三谷幸喜作品らしい笑いは要所要所で描かれています。ただ、アメリカ大統領(木村佳乃)の演説しかり、黒幕の小物感しかり、対立軸に深入りしていません。見やすいとはいえますが、なぜ政治を舞台にした作品を描いたのかよく分からないまま、設定の大きさの割には特段カタルシスなく終わった印象です。
大きなことを成し遂げるためには、まずは身近なところを幸せにするところから始まる、ということはいえるかもしれません。
三谷作品への期待
初期の三谷監督作が大好きです。
一つのそこまで大きくない世界の中で、一つ一つのキャラクターをうまく繋げ、きれいな着地点に持っていく。ここ最近はそういう作風がなりを潜めています。それでも何か期待をして、毎度見に行ってしまいます。三谷脚本の舞台を見に行けば良いのでしょうか?
政界もこれをやって終わり、という世界ではありませんから、私が勝手に期待する作品像にはどうしてもなりえません。
政治的に正しい政治映画
思うに政治と大衆向けのコメディって、なかなか食い合わせが悪いですね。
政策的な成功を描くと政治色が強くなり、コメディにはなりません。本作で言及された政策は下記の通りですが、あくまで民に寄り添う姿勢を示すにとどまります。
・無駄な箱物をやめる
・消費減税を、法人増税により賄う
・米国から日本の農作物を守る
一方で、権謀術数を描くのは「身軽な」政治家像=記憶をなくした黒田総理(中井貴一)との両立が難しい。そもそも、権謀術数は十分『清須会議』の豊臣秀吉(大泉洋)で描写済みです。
結果的に「政治的に正しい」=穏当な作品に落ち着くのは設定上やむを得ないとしか言いようがないですから、それでもある程度楽しめる作品になっていることは評価されるべきことでしょう。
最後に余談ですが、低支持率首相を描いた三谷脚本のドラマ『総理と呼ばないで』が、どのような帰結なのかは気になりました。